3 作文から知る少数民族問題

雲南の少数民族
雲南の少数民族

  国民の92%を占める漢族とそれ以外の55族あるとされる少数民族との間に何か問題があるのだろうか? 私が教えていた4大学では少数民族はとても少なくて、1クラス25人の中に1~3人程度に過ぎない。私の目には、漢族と少数民族との間に外見上の違いはほとんど認められなかった。国家の民族融和政策により、漢族と少数民族とは差別なく暮らすことになっており、学生たちは仲がいいように見えた。しかし、雲南省には少数民族の宝庫といわれているほど少数民族が多い。あるとき、4年生の作文授業で『アメリカの裁判事例』を紹介して意見を書かせたことがある。

 

**<作文テーマ>******************

テキサス大学ロースクールでは大学入試でマイノリティ優遇策を採用している。この結果、合格したマイノリティ学生(黒人とヒスパニック)に劣らない入試成績をとった白人女学生が不合格となった。そこで彼女は、これは不当であり、アメリカ合衆国憲法(法の下の平等)に違反する逆差別だと、連邦裁判所に訴え出た(1996年)。

ここで、いくつかの争点がある。

 過去の歴史で、マイノリティは差別など不利な立場に置かれており、それが今も続いているのでマイノリティ優遇策で補償する。

 白人が過去にマイノリティを迫害差別していたことは事実としても、現代に生きる白人はそれを償う責任を負うものではない。マイノリティが経済的に不利な立場にあるのなら、国家の社会保障施策で援助すべきで、大学の入試で優遇すべきことではない。

 大学には白人だけでなくマイノリティがバランスよくいて、多様性の中で共に学び合う環境が相互にとって有益であるし、マイノリティ学生が卒業後に平等な社会づくりに貢献することが期待できる。だからマイノリティ優遇策は必要である。

【問】大学入試で『マイノリティ優遇策』への賛否とその理由を述べなさい。また、中国でも『少数民族の入試優遇政策』があるので、それにも言及して考察しなさい。

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その結果、作文した学生の賛否が、漢族と少数民族の間で割れていたのが興味深かった。アメリカのマイノリティ優遇策と中国の少数民族優遇策への賛否は連動していたので、以下には、中国の少数民族優遇策についての意見を紹介することにする。

【少数民族の学生】少数民族が住んでいる居住地は経済的に貧しい。大都会に住んだり、恵まれた教育環境にいる漢族と試験点数だけで競うと、不利になるのは明らかなので、少数民族優遇策は必要だーーと、ほとんどの少数民族出身者が回答している。中には、少数民族優遇策でこの大学に入学できたことを喜んでいる学生もいた。

【漢族の学生】少数民族への理解を示す学生も少なくなかったが、優遇策に反対が多かった。中国では、大学に入学すること、特に名門国立大学指向がかなり強い。それは将来のよき就職が約束されると考えているからだ。だから、入試で不利になることなど耐え難いのだろう。雲南省の僻地にいる少数民族に対しては同情していても、昆明市のような大都会に住み、漢族と同じ教育を受けている少数民族出身者が優遇措置を受けていることには、強い不公平感を抱いているようである。 

 

 日本は単一民族に近いほど均質な社会だといわれている。一方、アメリカの人種問題はいうまでもなく、中国、東南西アジアには少数民族が混在し、欧州は各国(つまり各民族)がせめぎ合っている。民族問題は程度の差こそあれ、世界の各国にとっては身近で看過できないことなのだろう。私はたまたま作文で、中国における民族間の考え方の齟齬を垣間見ることになったが、雲南省の少数民族は民族相互間だけでなく、とりわけ多数を占める漢族との間で、結婚や宗教など私が気づかなかったことで軋轢があるのかもしれない。


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