7 学生の日常生活

A  ノスタルジックな中国の旧正月

新暦、旧暦の違いはあるが、正月を祝う伝統には日中で類似点が多い。わたしは、春節後の後期授業で作文授業を担当するときには、必ず学生に故郷で祝った旧正月の思い出を書かせることにしている。

大都会に出稼ぎに行っていた親が一年ぶりで故郷に帰って再開することの喜び、家族総出で正月の準備をする賑わい、餃子をたべながら見る大晦の晩会のテレビ中継(日本の紅白歌合戦に相当)、そして爆竹の破裂音で迎える新年、親戚一同が集う新年会と遊び、美しく着飾った晴れ着姿で年始の挨拶回りと先祖の墓参、子供が心待ちにしている壓歳銭(お年玉)などを学生が綴る。いずれも春節を祝う喜びにあふれている。学生の多くが地方出身者であることがかえってローカル色に彩られて楽しそうである。

これらの中には中国独自のものがあるが、私が少年時代に経験した日本の正月の原風景も見られるのが嬉しい。日本の戦後がアメリカナイズされながら経済的発展を遂げているうちに忘れ去ってしまった伝統行事を、中国の学生の作文から改めて思い出すことになり、懐旧の思いに駆られるのだ。

私は、日本の戦後の経済発展を底辺から支えたサラリーマンの一人であると自負している。少なくとも我が息子娘の前ではそう言える。しかし、わたしは、大都会でサラリーマン生活をしているうちに、父母から受け継いだ正月の伝統行事の殆どを無視してしまい、子の世代には伝えていないような気がする。教え子たちの家庭は、我々日本の家より貧しいかもしれない。だが、彼らの方が遙かに素朴で、豊かな正月を祝っていることだけは確かである。

 

中国建国60周年記念パレード

B 中国建国60周年記念軍事パレード

2009年10月1日の国慶節(建国記念日)は、建国60周年の節目の年であり、天安門前広場では大々的な軍事パレードが行われ、胡錦濤国家主席の閲兵を受けた。

朝から、延々と続いたパレードはテレビでも中継され、男女軍人の徒歩部隊、車両部隊、近代兵器を搭載した車が行進し、国民の70%以上が最後までテレビに釘付けだったという。

たまたま私の宿舎に来た数人の学生も最後まで目を輝かせて見ていた。そんな様子を眺めていると、中国国民が革命国家建設に重要な役割を果たした解放軍への揺るぎない信頼感と敬愛の念を抱いていることが感じ取れるのだ。

私もテレビの画面を興味深く見はじめたが、一時間もするともう飽きてしまった。所詮この種の軍事パレードは、共産主義国の国威発揚のためのプロパガンダにすぎないという思いがあるのだ。日本では、無謀な戦争へと導き国家を破滅させた軍隊への不信感があり、自衛隊のパレードはあってもテレビで実況中継をしないし、国民もあまり関心がない。両国民の軍隊に対する信頼感には雲泥の差がある。

軍隊が国民に身近で、大学からも受け入れられている例として、新入生の『軍事教練』がどこの大学でもある。私が新学期に赴任すると、迷彩色の軍服を身にまとった学生がキャンパスを闊歩している姿に出くわし、授業中にも、訓練中の学生の「えいや」という叫び声が外からきこえてきた。新入生が大学での団体生活に適応できるように、軍隊から派遣された若手教官の指導により、9月中の約一ヵ月間軍隊式訓練をうけるのだ。これもまた日本では決して見られない光景である。

 しかし、軍事教練中に規律正しく行動していた女学生は、それが終わると、普通の素朴な若者にもどってしまう。そして、3、4年生になると、派手な衣服姿やハイヒールまで履く女学生まで現れて、キャンパス内では男女が人目もはばからず抱き合っている光景まで稀ではない。折り目正しい軍事教練と日本以上に過激な男女の性風俗との乖離をどう考えたらいいのか、と私は戸惑ってしまう。

 

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